横浜地方裁判所 昭和40年(ワ)567号 判決 1966年9月26日
主文
(一) 原告と被告宮尾重之との間において、原告が別紙物件目録記載の家屋の所有権を有することを確認する。
(二) 被告宮尾重之は原告に対し、前項の家屋について、横浜地方法務局神奈川出張所昭和四〇年一月九日受付第六五四号の所有権保存登記の抹消登記手続をせよ。
(三) 被告(反訴原告)丸金商事株式会社は原告(反訴被告)に対し、第一項の家屋について、いずれも横浜地方法務局神奈川出張所昭和四〇年一月一九日受付による第一六二八号の根抵当権設定登記、第一六二九号の停止条件付所有権移転仮登記、第一六三〇号の停止条件付賃借権設定仮登記及び同年五月一九日受付第二〇七二六号の所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。
(四) 反訴原告の反訴請求を棄却する。
(五) 訴訟費用中、反訴について生じたものは被告(反訴原告)丸金商事株式会社の負担とし、本訴について生じたものは、被告宮尾重之、被告(反訴原告)丸金商事株式会社の各負担とする。
事実
(本訴について)
原告(反訴被告。以下単に原告という)訴訟代理人は、主文第一、二、三項と同旨及び「訴訟費用は被告らの負担とする」との判決を求め、請求の原因として次のとおり述べた。
一、原告は別紙物件目録記載の家屋(以下本件家屋という)の所有者である。本件家屋は、もと訴外伊藤延太郎の所有であつたが同人から訴外野崎愛之助が譲受けて所有権を取得し、次いで原告が昭和二二年八月頃野崎から贈与を受けて所有権を取得したものである。
二、ところが、被告宮尾重之は、本件家屋につき何の権利もないのに、横浜地方法務局神奈川出張所昭和四〇年一月九日受付第六五四号をもつて所有権保存登記をしてしまつた。
三、被告(反訴原告)丸金商事株式会社(以下単に被告丸金商事という)は、被告宮尾との間で昭和四〇年一月一四日証書貸付、手形貸付、手形割引契約をするとともに、右債務を担保するため、本件家屋について債権元本極度額五〇万円、損害金日歩九銭八厘の定めの根抵当権設定、右債務の不履行を停止条件とする代物弁済および貸借権設定の各契約を締結し、横浜地方法務局神奈川出張所昭和四〇年一月一九日受付による第一六二八号の根抵当権設定登記、第一六二九号の停止条件付所有権移転仮登記、第一六三〇号の停止条件付賃借権設定仮登記の各登記をした。
次いで、被告丸金商事は、右停止条件付代物弁済契約に基づき横浜地方法務局神奈川出張所昭和四〇年五月一九日受付第二〇七二六号をもつて、本件家屋につき所有権移転の本登記をした。
四、そこで原告は、被告宮尾との間において本件家屋は原告の所有であることの確認を求めるとともに、所有権に基づき、被告宮尾に対して前記所有権保存登記の被告丸金商事に対して右根抵当権設定登記、停止条件付所有権移転仮登記、停止条件付賃借権設定仮登記及び所有権移転本登記の、各抹消登記手続を求める。
被告宮尾訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、請求の原因に対する答弁として、第一項は否認する。第二項および第三項の各登記が存するとの点は認める、第四項は争うと述べ、本件家屋は被告宮尾の姉である訴外宮尾よ志のが新築して所有権を取得し、その後同人から被告宮尾が贈与を受けて所有権者となつたものであり、その所有権保存登記手続が遅れていたので昭和四〇年一月九日にしたにすぎない、と述べた。
被告丸金商事訴訟代理人は、「原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、請求の原因に対する答弁として、第一項は否認する、第二、三項は認めると述べた。
(反訴について)
被告丸金商事訴訟代理人は、「原告は被告丸金商事に対し、本件家屋を明渡し、かつ昭和四〇年五月二〇日から右明渡済みまで一カ月金一五、〇〇〇円の割合による金員を支払え。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、請求の原因として次のとおり述べた。
一、被告丸金商事は被告宮尾重之に対し、昭和四〇年一月一四日証書貸付、手形貸付、手形割引契約を締結するとともに、その債務の不履行を停止条件として被告宮尾所有の本件家屋の代物弁済契約を締結し、右同日、弁済期限を同年二月二八日と定め金五〇万円を貸与した。ところが被告宮尾は弁済期に右債務を弁済しなかつたので、同年三月一日右停止条件が成就して被告丸金商事は代物弁済として本件家屋の所有権を取得した。
仮りに、右代物弁済契約が停止条件付代物弁済契約でないとしても、それは被告丸金商事が被告宮尾の債務不履行の場合に一方的に予約完結権を行使しうる代物弁済の予約であり、被告丸金商事は昭和四〇年四月三〇日付、同年五月五日到達の内容証明郵便をもつて被告宮尾に対し、その到達後五日以内に前記債務を弁済しないときは代物弁済の予約完結権を行使する旨催告したが、弁済がなかつたので同年同月一四日右予約完結権を行使した。
いずれにしても、被告丸金商事は代物弁済により本件家屋の所有権を取得したので、昭和四〇年五月一九日本件家屋につき所有権移転登記を経た。
二、しかるに原告は権原なしに本件家屋に居住してこれを占有している。
三、よつて被告丸金商事は原告に対し、所有権に基いて本件家屋の明渡し及び昭和四〇年五月二〇日から明渡済みまで一カ月金一五、〇〇〇円の相当賃料額による損害金の支払を求める。
原告訴訟代理人は、「被告丸金商事の反訴請求を棄却する。訴訟費用は被告丸金商事の負担とする。」との判決を求め、請求の原因に対する答弁として、第一項中本件家屋が被告宮尾重之の所有であるとの点は否認、その余は不知、第二・三項は争うと述べた。
(証拠)(省略)
理由
(本訴の判断)
本件家屋につき、被告宮尾が原告主張のとおり所有権保存登記をしたこと、被告丸金商事が原告主張のとおりの根抵当権設定登記、停止条件付所有権移転仮登記、停止条件付賃借権設定仮登記および所有権移転本登記を経由したことはすべての当事者間に争いがない。
ところで、甲第二、第四号証、丙第一ないし第三号証、丙第五号証(以上いずれも真正に成立したことに争いがない)と証人伊藤延太郎、同石田新吉の各証言、原告本人尋問の結果を総合すると、本件家屋はもと鶴見区生麦町にあつて、伊藤延太郎が所有していたところ、昭和二一、二年頃、当時原告の世話をしていたいわゆる旦那の野崎愛之助が、原告の希望で原告のため本件家屋を買い受けて、これをとりこわして現在の土地上に移築してやつたこと、本件家屋の敷地にはもと原告の養母宮尾よ志の所有名義の家屋があつたが、戦災で焼失したまま、借地人名義が右よ志ののまま残つており、またよ志のの希望もあつたので、原告は野崎と相談のうえ、本件家屋をよ志の名義とすることを許容して、一時他に移り住んでいたところ、よ志のは本件家屋の所有名義人をその実子(戸籍上は弟)の被告宮尾重之として家屋台帳上の届出をしてしまつたので、固定資産課税台帳の上でも本件家屋の所有名義人が被告宮尾重之とされてしまつたこと、しかし原告は、本件家屋を名実ともによ志のの所有としてしまうつもりはなく、本件家屋の固定資産税は終始原告が負担支払つて来たこと、以上の事実を認めることができる。証人平田あや子の証言および被告宮尾重之本人尋問の結果中、以上の認定に反する部分は採用することができず、他に右認定を動かすに足る証拠もない。
右認定の事実によると、本件家屋は原告が野崎愛之助から贈与を受けて所有権を取得したものであり、その固定資産課税台帳の上で被告宮尾重之が所有名義人とされていたところで、それが真実の所有権の帰属を示すものではなく、所有権者は原告であることにかわりはなかつたとみるのが相当である。
してみると、被告宮尾は本件家屋の所有権を取得したことなどなかつたのであるから、本件家屋の所有権者として、原告の被告宮尾に対するその所有権確認請求と前記所有権保存登記の抹消登記手続請求は理由あることが明らかである。
また、被告丸金商事が被告宮尾との間で本件家屋について原告主張のような根抵当権設定契約、停止条件付代物弁済および賃借権設定契約を締結し、これら契約に基づき、本件家屋について冒頭掲記の各登記を経由したことは原告及び被告丸金商事間に争いがないが、被告宮尾が本件家屋の所有権をもつていなかつたこと前記のとおりであつて他に同被告が本件家屋の処分権限をもつていたことも、これを認めるに足る証拠はないから、被告丸金商事は所有権者たる原告との間で、有効に前記各契約上の権利を取得することはできなかつたのであり、従つて被告丸金商事が本件家屋につきなした前記根抵当権設定登記、停止条件付所有権移転仮登記、停止条件付賃借権設定仮登記並びに所有権移転登記は、いずれも無効の登記として抹消さるべきものであつて、原告の被告丸金商事に対する請求も理由がある。
(反訴の判断)
本訴で認定したとおり、本件家屋は原告の所有に属すること明らかであるから、被告宮尾から本件家屋所有権を取得したことを前提とする被告丸金商事の原告に対する反訴請求は理由がなく、棄却すべきである。
(結論)
よつて原告の本訴請求をすべて認容し、被告丸金商事の反訴請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九三条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(別紙)
物件目録
横浜市神奈川区栄町三丁目六七番地所在
家屋番号 一一二番二
一、木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建居宅
床面積 一五坪五合(五一・二三平方米)